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ep49 エミルの憂鬱

Auteur: 根上真気
last update Dernière mise à jour: 2025-05-18 08:41:32

【4】

〔ウィーンクルム〕へ移ってきてからの最初の朝は遅かった。

昨日の疲れからかリザレリスは中々起きることができなかった。何度も王女を起こしにいこうとするルイーズを食い止めたのはエミルだった。彼のおかげで、リザレリスは目一杯の睡眠を享受した。

「あー、今日も遊びに行きてー」

自室で遅めの朝食をとりながらリザレリスはボヤいた。ちょうどルイーズが席を外しているタイミングだった。部屋には王女とエミルのふたりだけ。

「リザレリス王女殿下。本日は午後にデアルトス国立学院へご挨拶に伺う日ですよ」

リザレリスの横に寄り添って立つエミルは、王女のグラスに飲み物を注ぐ。

「えー、めんどくせー。登校初日でよくね?」

「そういうわけにも参りません。まだ休校中の今日に行っておかねば」

「なあエミル」

リザレリスは食器を置くと、口元を拭いてエミルを見上げた。 

「なんでございましょう」

「なんでよそよそしいの?

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  • 転生吸血姫   ep49 エミルの憂鬱

    【4】〔ウィーンクルム〕へ移ってきてからの最初の朝は遅かった。昨日の疲れからかリザレリスは中々起きることができなかった。何度も王女を起こしにいこうとするルイーズを食い止めたのはエミルだった。彼のおかげで、リザレリスは目一杯の睡眠を享受した。「あー、今日も遊びに行きてー」自室で遅めの朝食をとりながらリザレリスはボヤいた。ちょうどルイーズが席を外しているタイミングだった。部屋には王女とエミルのふたりだけ。「リザレリス王女殿下。本日は午後にデアルトス国立学院へご挨拶に伺う日ですよ」リザレリスの横に寄り添って立つエミルは、王女のグラスに飲み物を注ぐ。「えー、めんどくせー。登校初日でよくね?」「そういうわけにも参りません。まだ休校中の今日に行っておかねば」「なあエミル」リザレリスは食器を置くと、口元を拭いてエミルを見上げた。 「なんでございましょう」「なんでよそよそしいの?

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